大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和52年(ヨ)2359号 決定

申請人 藤村瑛二

被申請人 日本電信電話公社

主文

一  本件各申請を却下する。

二  申請費用は申請人の負担とする。

理由

第一当事者の申立

一  申請人

1  申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  被申請人は申請人に対し昭和五一年一二月九日から本案判決の確定に至るまで毎月一五日限り各金三〇万六〇〇〇円宛を仮に支払え。

3  申請費用は被申請人の負担とする。

二  被申請人

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  申請人

別紙(一)ないし(六)記載のとおり。

二  被申請人

別紙(七)、(八)記載のとおり。

第三当裁判所の判断

一  本件仮処分申請は、雇用契約上の仮の地位確認とこれを前提とした賃金の仮払とを求めるものであるところ、かかる仮処分は、主として申請人(およびその家族)の経済生活の維持を目的としてそのための仮の地位を暫定的に定めるものであつて、これが許容されるためには、被保全権利の存在とともにかかる地位を仮に定めなければならない緊急の必要性の存在が疎明されなければならないことは明らかである。

二  そこで、本件についてはまず右の緊急の必要性があるか否かについて検討する。

1  本件において、申請人が右緊急の必要性があるとして主張するところは、これを要約すると、次のとおりである。

(一) 申請人は、被申請人から、本件免職処分を受けた昭和五一年一二月八日の時点において、月額金三〇万六〇〇〇円の給与の支払いを受けていたが、同免職処分により同年一二月分以降の給与の支払いを受けていない。

(二) 申請人は、被申請人から支払いを受ける給与によつてのみ、その生計を維持していたものである。

(三) 申請人の年令、社会経済情勢等からみて、申請人が再就職することは極めて困難である。

(四) 申請人は、本件免職処分により、日本電信電話公社共済組合から昭和五二年二月以降年額金一四六万五二〇〇円の退職年金を受給しており、また被申請人から退職手当の支給を受けたが、いずれもその後の申請人の生計を維持するには足りない額である。

(五) 申請人は、被申請人が本件免職処分をなしたことを宣伝したため、その社会的名誉を毀損され、社会生活を送ることが困難となつている。

2  ところで、本件記録によれば、本件免職処分から審尋手続に至る経緯が次のとおりであることを一応認めることができる。

(一) 申請人は、本件免職処分を受けた昭和五一年一二月八日から約九か月を経た昭和五二年八月三〇日、本件仮処分申請をなした。

(二) 当裁判所は、同年九月二日、本件審尋期日を同年一〇月三日午後四時三〇分と指定し、その旨当事者双方に通知した。

(三) 右の期日指定に対し、被申請人代理人から期日変更申請があつたため、当裁判所は、右期日を同年一〇月五日午後三時と変更し、同期日には当事者双方が出頭して実質的審尋が行われ、同期日において次回期日を同年一一月二一日午後三時三〇分と指定した。

(四) その後、同年一一月二一日午後三時三〇分、昭和五三年一月一七日午後三時、同年二月一四日午後四時、同年三月二三日午後三時三〇分、同年五月九日午後三時三〇分の各審尋期日には当事者双方が出頭して実質的な審尋が行われた。

(五) ところが、右昭和五三年五月九日午後三時三〇分の審尋期日において指定した同年六月二〇日午後三時三〇分の審尋期日は、申請人の右肩腕症候群を理由とするその旨の医師の診断書を添付した期日変更申請により、同年八月二五日午後四時と変更され、同期日には当事者双方が出頭して実質的な審尋が行われ、当裁判は、同期日において次回期日を同年一〇月一九日午後四時と指定した。右審尋期日は、期日直前に申請人からの準備不足を理由とする期日変更申請があつて、当事者双方が不出頭のために延期となり、当裁判所は、次回期日を追つて指定とした。

(六) その後、申請人から同人の十二指腸潰瘍の疑いを理由とするその旨の医師の診断書を添付した病気回復まで審尋手続の中止を求める旨の書面が同年一一月一七日付(翌一八日受理)で提出され、さらに、申請人から同人の十二指腸潰瘍、胆石症を理由とするその旨の医師の診断書を添付した右同様の審尋手続の中止を求める旨の書面が昭和五四年三月二日付(同月七日受理)で提出された。

(七) 当裁判所は、同年三月一九日、審尋期日を同年四月二七日午後二時と指定したが、同期日呼出状は被申請人に対しては送達できたものの、申請人に対しては送達不能となり、その結果、同期日は当事者双方不出頭のため延期となり、次回期日を追つて指定とした。

(八) さらに、当裁判所は、同年五月二日、審尋期日を同年六月二二日午後一時と指定したが、右同様同期日呼出状が申請人に対し送達不能となり、その結果、同期日も当事者双方不出頭のため延期となり、次回期日を追つて指定とした。

(九) その後、申請人から再度同人の十二指腸潰瘍穿孔、急性汎発性腹膜炎(同年五月三〇日広範囲の胃切除術施行)により同年六月一九日まで入院加療が必要であることを理由とするその旨の医師の診断書を添付した審尋手続の中止を求める旨の書面が同年一一月二三日付(同月二六日受理)で提出された。

(十) 当裁判所は、右書面が提出されて一年数か月後の昭和五六年二月二三日、審尋期日を同年四月六日午前一〇時と指定したが、同期日呼出状は前同様申請人に対し送達不能となつた。なお、被申請人からその後の同年三月一七日付で本件審尋手続の再開を求める旨の書面が提出された。

(一一) 同年四月六日午前一〇時の審尋期日には被申請人代理人は出頭したが、右の理由から申請人が出頭しなかつたため、当裁判所は、実質的審尋ができないまま一応審尋手続を終了することとした。

(一二) その後今日に至るまで、申請人から本件につき何らの申出もなされていない。

3  右2において認定した事実関係からみて、当裁判所は、本件申請が本件免職処分が行われた昭和五一年一二月八日から約九か月後の昭和五二年八月三〇日になされており、同申請時から今日まで実に約四年半以上の年月を経過しているが、この間において実質的な審尋手続が行われたのは、昭和五二年一〇月五日午後三時の審尋期日をはじめとして昭和五三年八月二五日午後四時の審尋期日に至る計七回であり、その後は主として申請人の病気を原因として(申請人からの期日変更申請二回、審尋手続中止要請三回)審尋手続が行われず、さらにその後に至つては、申請人に対する審尋期日呼出状の送達が不能となり(三回)、十分な審尋手続が行われないまま右の昭和五三年八月二五日から約二年八か月後の昭和五六年四月六日午前一〇時の審尋期日において、もはや審尋手続を続行したところでその目的を達し得ないものとして同手続を一応終了せざるを得なかつたものである。

しかし、当裁判所としては、右のように審尋手続を実施できず、さらには審尋期日呼出状を申請人に対し送達することができなくなつた理由が主として申請人の病気にあるものと推認されるところから、特にかかる申請人の事情を考慮して右昭和五六年四月六日以降今日に至るまで申請人に本件につき何らかの申出をなさしめる機会を与えるべく待機したが、申請人から今日に至るまで何らの申出がなされていない。

以上によると、もともと本件申請は、前記一において説示のとおり、申請人において迅速な救済を求める緊急の必要性があるものとしてなされているものであつて、これがある場合に限り許容されるものであるところから、既に現在においては申請人には右の緊急の必要性が存在しなくなつているものといわざるを得ない。

4  もつとも、申請人は、前記1において摘示のとおりの右緊急の必要性があるものと主張し、これを疎明するものとして疎甲第四、五号証、同七ないし第一〇号証、同第一二ないし第一四号証、同第一五号証の一ないし三、同第一六ないし第一九号証が提出されているが、前記2において説示のとおりその後における本件審尋手続の経緯からみて少なくとも現在においては右緊急の必要性が存在しないものといわざるを得ないものであるから、右によりこの結論を左右することはできず、他に現在においてもなお右緊急の必要性が存在すると認めるに足りる疎明はない。

ちなみに、本件審尋手続が続行されたのは、被保全権利の存否についての審理であることは本件記録から十分に窺知されるところである。

三  以上説示のとおりで、本件申請はその緊急の必要性を認めるに足りる疎明を欠き、しかも事案の性質に鑑み右疎明に代えて保証を立てさせることも相当でないから、被保全権利の存否についての判断をなすまでもなくこれをいずれも却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 渡邊昭)

別紙(二)~(八)〈省略〉

別紙(一)

地位保全仮処分申請書

申請の趣旨

申請人は被申請人に対し、雇傭契約上の権利を有する地位を仮りに定める。

被申請人は申請人に対し、昭和五一年一二月九日以降毎月金三〇六、〇〇〇円の割合による金員を毎月一五日限り支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

との裁判を求める。

申請の理由

一 申請人は昭和二三年東京大学工学部を卒業し被申請人の前身たる逓信省東京搬送工事局に採用され、昭和二七年被申請人公社が電気通信省の業務を引継ぐにあたり、被申請人の社員となり爾後被申請人公社東京電気通信局局長室調査役などを歴任し昭和四四年二月三日電気通信研究所研究専門調査員に任ぜられ被申請人公社に勤務していたものである。

二 解雇

昭和五一年一二月八日、被申請人は申請人に左記行為があり、これが被申請人公社職員就業規則第五五条第一項第一号及び第六号の免職事由に該当するものとして申請人を解雇する旨の通知をした。

1 昭和四七年三月から同年八月までの間において、健康管理の必要上健康管理従事者から再三にわたり精密検査受診の指示等がなされたにもかかわらず、これに従わず、健康管理指導区分の指示を不服とし、独自の見解に固執してこれらの者と紛議を来たし、

2 昭和四七年九月以降、現在に至るまでの間において直属上長の再三にわたる注意を無視し、病気休暇の承認を受けることなく無断欠勤等を繰り返し、

3 昭和四八年一月、健康管理指導区分の指示等に関連して、研究所長、健康管理医等を職権濫用罪等で故なく告訴し、

4 さらには昭和五一年五月、健康管理等に関連し虐待等の行為があつたと邪推して、多くの上司あるいは部内外の医師に対し、みだりに民事訴訟を提起し、

5 昭和四五年一二月以降、前号訴訟を含む五件の民事訴訟において、公社あるいは公社役職員に犯罪行為があるなど事実無根の誹謗を繰り返し、

6 再三にわたる提出指示にもかかわらず、昭和四九年度前期同五〇年度前期及び後期の業務状況報告書を提出せず、また同四九年度後期、同五一年度前期の業務状況報告書には業務状況報告にふさわしくない記述を行うなど、業務逐行にあたつての努力に著しく欠けており、

7 上司等との間において、しばしば紛議を来たし、また相手方の承諾を得ることなくみだりにその会話をテープに録取し、昭和四八年九月には業務に関連して内容証明郵便を以つて所長に抗議するなど、職場の秩序を乱し、職場における信頼関係を阻害し、協調性に欠ける行為が顕著であり、

8 昭和五一年七月から同年九月にわたり、これらの行為を戒めるため、所長から再三にわたり所長室への出頭を指示されたにもかかわらず、これを拒否して出頭せず、

9 その他、公社職員としてふさわしくない幾多の行為があつた。

就業規則第五五条第一項の免職条項はつぎのとおりである。

第五五条職員は、次の各号の一に該当する場合はその意に反して免職されることがある。

(1) 勤務成績がよくないとき

(2) 第五二条第一項第一号の規定に該当して休職にされた場合において、同条第二項の休職の期間を経過してもなおその故障が消滅しないとき

(3) その他心身の故障のため職務の遂行に支障があり、またはこれに堪えないとき

(4) 禁治産者または準禁治産者となつたとき

(5) 禁錮以上の刑に処せられたとき

(6) その他職務に必要な適格性を欠くとき

(7) 業務量の減少その他経営上やむを得ない理由が生じたとき

三 解雇無効

(一) 申請人は被申請人の指摘する免職事由に該当するような行為をしたことはないのであつて、右解雇は根拠を欠き無効である。

1 被申請人のいう前記1の行為

「昭和四七年三月から同年八月までの間において、健康管理従事者から精密検査受診の指示がなされた」ことは認めるが、これに従わなかつたわけではない。

外部の官公立病院で二ケ月ごとに精密検査を受け、検査のデータ、医師の診断書、意見書を保有しており、この中の一部は提出して居り、受診の指示に従う旨申出ていたのである。

この外部の権威あるデータを殊更に無視して、持参しろといはず、体に有害な放射線を徒らに何度も浴せようとしたのでこれを避けるためである。

「健康管理指導区分の指示に対し不服」を述べたことはあるが、申請人の不服申立が独自の見解に固執したものでもないし、殊更紛議を来たしたわけでもない。

即ち、申請人は病気退院後体力不十分な状態で、且つ、通勤時間が往復四時間もかかつていたため、従前六時間勤務の健康管理指導区分の指示を受けていたが、八時間勤務に耐えるとする何の客観的データもないのに、レントゲン技師に指示して退院直後にすでに健康体だといわせたり、しかも、かえつて、前記官公立病院の検査結果等を無視して(胆石の写つているレントゲンフイルムがあり、且つ病の症状もそのものでありながら、胆石でないと強弁した)、八時間勤務の健康管理指導区分の指示を為したので、このような医学、規則、慣習を無視した指示に不服を申立てたのであつて、自己の生命身体の安全を脅かす指示に対し正当防衛上不服を申立てるのは当然の権利である。

更に、健康管理医の意図的な偽診、それに基く指導区分の指示に対し体調のそれに伴わぬことを申立てたことが、就業規則の免職事由に該当するなどとは牽強附会の主張である。

2 前記2の行為

申請人は無断欠勤等を繰り返したことはない。

申請人は、病気休暇をとる場合に、規則及び従来の慣行に従つて診断書、治療費の領収証等を提示或は提出してその届出をして来たにも拘らず、被申請人はこれを病気休暇のとり方の手続に悖るという屁理屈をつけて、無断欠勤をして処理して来たのである。

従つて、申請人は欠勤の届出をしないとか、病気と偽つて休暇をとつたりしたことはなく管理者側もそれは承知して居り正当なる病気休暇を被申請人が免職の事由を作らんがため、理不尽にも無断欠勤として処理したものである。

3 前記3の行為

被申請人(研究所長)が、健康管理医をして、規則、慣行を無視した医学的な根拠のない健康管理指導区分を認定させ、これにより、申請人の身体生命の安全を脅すような指導区分指示を契機として従来からの虐待行為の積算に対し正当防衛上やむなく告訴したのであつて、「故なく告訴」したのではない。

4 前記4の行為

被申請人は「健康管理等に関連して虐待等の行為があつたと邪推して」というが、事実、虐待があつたのである。

既に右1で述べたように、病状の悪いことを承知していながら六時間勤務を八時間勤務に変更したり、通勤不可能であるにも拘らず社宅を貸与しなかつたりして治療のための時間を与えず体力を消耗させるなど数々の虐待を為しているのである。

これがため、法律の保護を求めるため訴訟を提起したのであつて、裁判を受ける権利を正当に行使したことをもつて免職事由に当るなどとは言語道断である。

5 前記5の行為

被申請人は申請人を故なく降職したり、仕事を与えなかつたりするなどして退職せざるを得なくなるように追い込もうとしたので、申請人は被申請人に対し降職の無効確認を求める訴訟を提起したのである。

被申請人が申請人を虐待したり、故なく降職したりして、退職に追い込もうとしたのは、被申請人公社幹部が収賄という犯罪行為の発覚を惧れ申請人を追い出そうとして為したことである。

従つて、右訴訟において、かかる不当な動機に基いた不法な虐待、降職等の事情の説明として犯罪行為について触れたのであつて、事実無根の誹謗ではない。

6 前記6の行為

申請人が業務状況報告書を提出しなかつたことは認めるがこれは被申請人が申請人に対し、実質的な仕事を与えなかつたことによるものである。被申請人が仕事を与えなかつたのは、右5で述べたような不当不法な動機により申請人を退職に追い込もうとしたためである。

業務状況報告書に業務状況報告にふさわしくない記述をしたとの点は次のようなことを指すものと思われるが、仮りにそれがふさわしくない記述であるとしても、それは被申請人の責に帰すべき事由によるものである。

即ち、報告書を書くのに、テーマのないのにどう処理しようかと相談を持ちかけても黙つて冷笑するのみで答えてくれないし、被申請人が申請人の業務の遂行を妨害して成果があがらないようにする、更にこれらに関し、上司に意見を具申してもとりあわないので、報告書の意見欄にこれらの点を書かざるを得なかつたのである。

従つて、被申請人側が申請人に仕事を与えなかつたりして申請人の業務遂行を妨害していたのであつて、申請人は業務遂行の努力を欠いていたわけではない。

申請人は国立大学をでる程好学であるし、また自発的に職務以外の企業のニーズを見出しては、世界的にも秀れた業績をあげてきたものであり勤労意欲がありすぎる程であつた。これに実績をあげさせぬため故意に仕事を取りあげているのである。

7 前記7の行為

「上司等との間においてしばしば紛議を来たし」たというのは、上司等が大勢で申請人の机の所に来て、叱責の言辞を書いた巻き紙を読みあげるなどして騒動の芝居をし、申請人を困らせるので、何かあつたら書類で示してくれと言つたことがあるが、これを紛議というなら、それは被申請人が仕組んだ罠である。

「会話をテープに録取し」たとの点のは、申請人が上司等の所に人事上、労務管理上の問題について話しにいくと、(公社においては一般的に管理者は日常に嘘偽をもつて部下をあしらい、だますものであつて)申請人としてはその対抗上やむを得ず、その会話をテープに録取したことがあるが、これは、後日記憶違いや行き違いのないようにするためにしたまでである。

又、現今は学生がノート代りに小型録音機を持ち歩く合理化の時代であり筆記のメモをとることが一般に行なわれている以上は、何ら不当な行為ではない。

所長に内容証明郵便を出したことがあるが、これは、申請人の上司である部課長が申請人にまともな仕事の与え方をしないので、それを所長に訴えたもので、後日のため内容証明郵便に付したまでである。

これらのことをもつて、職場の秩序を乱したとか、職場における信頼関係を阻害したとか、協調性に欠ける行為があつたなどというのは一方的なしかもこじつけの主張である。

8 前記8の行為

所長から出頭を指示され、出頭しなかつたことは事実であるが、所長から業務に関して意見があるならば、部課長を通じて指示があるのが慣行で未だかつて、所長から直接に指示があるようなことはなかつたので、直接具体的な注意があるのならメモ等の形で委細ゆきちがいのないようにしてほしい旨述べたことがあるが、出頭を拒否したわけではない。

文書で示してほしい旨述べたのは、その一ケ月位前、申請人が熱があつて医務室に行こうとして居るにも拘らず仕事のことで話があるから一寸来いと嘘をつき部長補佐の調査役と調査員の複数人が、部長室の隣りの会議室に申請人を連れていき、申請人を取り囲んで威圧して公務に関係のないプライバシーに干渉して詰問し禁止したことがあつたので、このようなことを避けるためやむ得ず行つたものである。

殊に部長の、出頭についての当時の伝言は所長室ではなくその隣りの会議室にこいとの指示をなした。所長が一対一の対面をなし個人的な形態をとつて話をなすのに、応接セツトのある自室を出て大会議室をつかうことはない。それは大勢でとりかこんで威圧を加えるためであることが明瞭であるのでこれをさけたのである。

9 前記9の行為

「その他公社職員としてふさわしくない幾多の行為があつた」というが、これは抽象的で、何を指すのか不明である。

以上申請人は、被申請人が指摘するような行為を為したことはないし、又、形式的に見て被申請人指摘の行為があつたとしても、それは、申請人の身体生命の安全のための正当防衛の見地から已むを得ず行つたものであり、又、被申請人の不当不法な動機に基く虐待、降職など退職に追い込もうとする行為に対抗するため已むを得ず行つたものであり、更に、被申請人が免職事由を作らんがために仕組んだ罠にはまつた行為であり、実質的には違法性を欠くものである。

(二) 被申請人は就業規則の解釈適用を誤つたもので本件解雇は無効である。

就業規則第五五条第一項第一号の「勤務成積がよくないとき」に該当する事実としては被申請人指摘の2及び6の行為のみである。

また、同条項第六号の「その他職務に必要な適格性を欠くとき」は第四号、第五号の包括規定であつて、第四号、第五号に準ずるような事由で職務に必要な適格性を欠くときを指すものである。従つて、被申請人の指摘する事実のうち、第六号に該当するような事実は全くないのである。

故に、被申請人指摘の2及び6の行為のみが問題になるわけであるが、前述のとおり右2の無断欠勤はしておらず、6の業務遂行にあたつての努力に欠けていた事実もないのである。

四 被保全権利と仮処分の必要性

(一) 申請人は本件解雇当時被申請人より一か月金三〇六、〇〇〇円の賃金の支払を毎月一五日に受けていたものであるが、被申請人は申請人に対し昭和五一年十二月分以降の賃金を支払わない。

(二) よつて、申請人は、被申請人に対して雇傭契約確認の訴を提起するよう準備中であるが、申請人は賃金によつて生計をたてているものであるから、本案判決の確定をまつていたのでは回復することの出来ない損害を受けるおそれがあるので本件申請に及んだものである。

疎明〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例